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---たしかにそうですね。カルチャー・ショックは何かありましたか?
Beverly たくさんありました。まず空港に降りてすぐ、エスカレーターの立つ位置が決まっていることにビックリしました。あと、名刺や書類とか何か物を渡すときは、相手にとって正しい向きにするということにも。日本の人は本当にきちんとしてますね。もちろんトイレにも驚きました。洗浄機能だけじゃなく、水の音がしたり音楽が鳴ったり(笑)
---では、ここから1stアルバム『AWESOME』の話にいきましょう。どういうアルバムをイメージしていましたか?
Beverly キーワードはチャレンジでした。フィリピンでは主にバラードを歌ってましが、このアルバムではアップテンポも多いし、ジャンルもさまざまです。曲によって違うアプローチが必要でしたし、そもそもリズムのある曲を歌うこと自体がチャレンジでした。
---「I need your love」が『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』の主題歌となりました。お話がきたときどう思いましたか?
Beverly ビックリしたと同時にすごくうれしかったですね。フィリピンでは日本のドラマも放送されていて、私は『花より男子』で小栗旬さんのことも知っていたので。
---その小栗さんがBeverlyの歌声をとても気に入ったことが、起用のきっかけとなったそうですね。
Beverly 私のライブを偶然目にした小栗さんが、ドラマのプロデューサーさんに推薦してくださったんです。ドラマ制作チームともアイディアを出し合って作ったのが「I need your love」。いい経験でした。
---日本語の発音が完璧だと思ったのですが、歌入れはどんなふうに?
Beverly メロディを覚えた段階で、まずプロデューサーさんと作詞をしてくださった坂田麻美さんから発音を習いました。それがだいぶ身についたところで一度通して歌い、うまくいかないところを「もう一回」、「もう一回」と時間をかけて直していきました。
---意味はどうしましたか?
Beverly マネージャーさんに訳してもらいましたが、ちょっと知るともっと知りたくなって、自分でも一語一語調べていきました。たとえば歌い出しの「聞こえないフリで」の「聞こえない」は"I can't hear"で、「フリ」は"pretend"で、というふうに。理解が深まると、表現がよりしやすくなりました。
---心とちゃんとつながって聞こえるのは、その努力の成果なんですね。挿入歌の「Empty」はジャジーで大人っぽい曲。Beverly自身が英語詞を手がけていますね。どうしようもない思いが伝わります。
Beverly ダークな曲なので、すごくせつない想いを書きたかったんですけど、私は失恋といってもフツーの失恋しかしてなくて(笑)。だから想像力を総動員させて書きました。あのドラマの恋愛シーンにピッタリの感じになったんじゃないかと自分では思ってます。
---うなりが入った歌声がとてもソウルフルです。
Beverly それもチャレンジでした。とにかくTVで自分の曲が流れるのがうれしくて、毎回家で一緒に歌ってます(笑)。
---「Unchain My Heart」もまた大人っぽくて素敵です。
Beverly これも失恋の歌ですね。サビの「♪A broken heart〜」は、泣き叫ぶイメージで歌いました。
---MISIAの「つつみ込むように」を手がけた島野聡さんの曲ですね。
Beverly はい。歌のディレクションもやってくださいました。作詞はシンガーのEmyliさん。スゴい方たちとご一緒できて本当に光栄です。
---さて、もう何曲かクローズアップしていきましょう。1曲目の「Tell Me Baby」では、地声の超ハイトーンに驚かされました。
Beverly 私自身もびっくりしたんですよ(笑)。ハイトーンが出せるとは思ってたんですけど、どこまで出るかは知らなかったので、ドキドキしながらトライしました。クリアできて新たな武器を得た感じがしました。背中を押してくれたプロデューサーさんに感謝です。
---「Just Once Again」は、昨年“a-nation”で歌ってましたね。
Beverly ちょっと恥ずかしい思い出があります。バラードなので感情をこめて歌ってたら、お客さんが手を振ってくれたんですね。それが見えた瞬間、私は迷いながらも「応えなきゃ」と手を振り返しました。あとで映像を見たら「♪私だけ 愛して」と歌いながら手を振る姿がすごくチグハグで、「何してるの?」って自分に思いました(笑)。バラードのときは、ちゃんと歌い終えてから手を振るほうがいいってわかりました。
---ちなみに私が好きなのは、ファンキーな「Mama Said」です。これもBeverlyの英語詞ですね。
Beverly 初めて作詞した曲です。アッパーな曲だし、ちょっとせつない若い感じのラブストーリーなので、同世代の人に共感してもらえるんじゃないかなと思います。
---「Sing my soul」は、Beverlyの人生を物語る曲だなと。
Beverly 私もそう思いました。「一人じゃないから みんながいるから」で思わずグッときて、歌いながら泣きそうになったことがあります。それくらい自分とリンクしますね。私自身への応援ソング。
---日本に来て、この歌のように強くなれましたか?
Beverly なったと思います。フィリピンにいたときはいつも母に頼りきってましたから。といっても時々は寂しくなります。特に一緒ついてきてくれた母が帰った日は、泣きそうなくらい寂しかった。ウチは兄弟4人でいつも賑やかだったので、静寂がコワいくらいだったんです。でも、もう大丈夫です。夢を叶えるためにここに来たんだと思いながらチャレンジするうちに、いつのまにか強くなれました。「Sing my soul」を聴いたり歌ったりするたびに、「明日も頑張ろう」って思います。みなさんにとってもそんな曲になったらうれしいです。
---まさに『AWESOME』な1枚。
Beverly 『AWESOME』は日本語で「ヤバい!」とか「スゴい!」という意味なんです。日本に来れたこと、たくさんの素晴らしい方たちとご一緒できたこと、さまざまなチャレンジができたこと、100%、いや1000%頑張れたこと、そして、サウンドそのものも私の歌も、全部『AWESOME』だと思っています。
---歌でずっと大事にしていきたいことは?
Beverly 歌うときが一番自由に感情表現ができるので、まずは曲に込められた思いを精一杯伝えたいですね。それと、歌うことを心から楽しみたい。私が楽しければ、きっとそれが伝わってお客さんもハッピーになれると思うんです。私の歌で、ひとときでもイヤなことを忘れて笑顔になってもらえたら、それが一番うれしいです。今年は夏フェスにもどんどん出たいし、ワンマン・ライブもやってみたい。そして、いつかはひとりでドームのような大きなステージにも立ちたいと夢見てます。
---海外に出て行くことも目標のひとつですか?
Beverly はい。日本語の曲でビルボードにチャートインできたらいいなと。アニメソング以外にも魅力的な日本語の曲があることを知ってもらいたいんですね。私がそういう曲を好きになったように、きっと海外の人たちも好きになってくれるはず。そう信じてます。
---では最後の質問になりますが…日本に来て幸せですか?
Beverly はい。たくさんの経験と素晴らしい出会い、そして、時々ホームシックになることも全部ひっくるめて、今、とっても幸せです!
藤井美保(音楽ライター)
大学卒業後、音楽関係の出版社を経て、作詞、作曲、コーラスなどの仕事などを始める。ペンネーム真沙木唯として佐藤博さん、杏里さん、鈴木雅之さん、中山美穂さんなどの作品に参加。その後、音楽書籍の翻訳なども手がけるようになり、93年頃からはライターとしてのキャリアも。